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2016.04.09

こうすけのぽつりひとりごと


第四回 夏

 この長い長い下り坂を、君を自転車の後ろに乗せてブレーキいっぱい握りしめてゆっくりゆっくり下ってく。夏といえばこれのはずだ。しかし現実はどうだろう。

 水の腐臭、干からびた鼠の死骸、肌にまとわりつく重みすら感じる湿気、女の汗と愛液の混じり合った薫り。こんなニヒルな生き方になって随分経つ。今日もジタンをくゆらせハードボイルドな夜(自動販売機の下から小銭を探す夜)が始まった。

 ゆずや恋仲の世界に自分を投影できるほど若くはないが、いつだってティーンネイジャーの気持ちを忘れたくない一心ではある。

 童貞を喪失してすでに23年が経ってしまったがその年の夏の記憶はいまだ甘酸っぱく入道雲のように綺麗なグラデーションを描いて記憶に残っている。今際の際で思い出す記憶はそれがいい。

 夏は何かが起きる。夏の奇跡というやつだ。

 今にも雨が降り出しそうなじめっとした深夜にスタジオのドアが開いた。そこには後輩のHが神妙な顔つきで立っていた。虫が入ってくるから早く入るように促し、ソファーに座らせ気分を落ち着かせてやろうと30年物のバランタインをロックで差し出した。それを一気に飲み干し2杯目を勝手に飲み出した。

 こんな夜中にスタジオに来るやつは何かのっぴきならないトラブルに巻き込まれたやつか精神疾患のやつしかいない。

 どうしたんですか待ちだろうと思ってふってやろうと思ったが、話したくなったら話すだろうと仕事をしているとHは深いため息と共に話しだした。嵐のように話し、嵐のように帰って行った。なかなか興味深い案件だ。

 Hはなかなかのイケメンで年中通して女に不自由しない男だ。週末ともなると新規の女性をいとも簡単に抱くことで有名な手練れである。

 その日は北見名物市議を囲んでのビールパーティーが催されるということで僕もHから誘われていたのだが死んでも行きたくないところナンバー1が市議のビールパーティーなのでしっかりとお断りさせていただいていた。

 どうやら男女数名でビールパーティーに行き散々飲んだ挙句そのままバーに流れ、その後カラオケというゴールデンコースだったそうだ。

 3人いた女性の中でHが初めから狙いを定めていた女性はKという22歳の見た目は超ヤリマン風の派手な事務員だ。

 ビールパーティーの段階ですでにディープキスを済ませたという。二件目のバーではあえて何もせず、カラオケでもう一度改めてディープキスを決めるという諸葛孔明のような聡明さ。Hの段取りはいつだって無欠だ。

 カラオケから女性を連れて抜け出す際の注意事項だが、お会計など残った奴らが済ませればいいだけなのでスマートにカラオケから抜け出していい。これは条例でも決まっているはずだ。僕の言いつけをしっかり守っているHもそれに倣い、スマートにKを連れ出しユニオン(旧ギュゼル)にチェックイン。

 お互いに汗ばんだ体だがシャワーも浴びず貪るように愛欲に耽る。羞恥と背徳の波止場、男と女の交差点。手練れの中の手練れ、女衒のHは想定通りに前戯を進める。忍空使いになり忍術を使うと疲労が溜まってくるのでこのタイミングで大体女性に攻守交代してもらうそうだ。

 ノーブロウジョブ、ノーライフを標榜し市民活動をしているH。恍惚の人なり。70点のブロウジョブ。及第点。いい感じだ。そしていいタイミングで随所にビリー・コーガンを責める技巧派一人。彼女もダーシー・レッキー並の手練れだ。

 時に激しく、時にセンチメンタルに責める様はまさにジェームス・イハ。その時事件は起こった。

 熱くなったKはビリーを口いっぱいに含みポンっとやるアレ(正式名称はなんて言うのだろう?勉強不足が露呈してしまい申し訳無い)を丹念に始めたのだ。Hはそれがそんなに好きではないのだがこの背徳の最中にストップをかけられるほど無粋では無いH。そろそろ終わるかなという時に目の前に無数の星が飛んだという。

 Kがあまりにもポンポンするものでビリーを蹴り上げられた時と同じ現象が起きてしまったのだ。下腹部に鈍痛が襲う。終わりの無い悲しみ。これはやばいかもしれないと思った時に勢い良く吐いてしまったそうだ。そう、ビリーを強くぶつけた場合、時に吐き気を催す時があるのだ。

 保健体育の時に教わるのはせいぜい中出ししたら気持ちいいということと、膣痙攣には気をつけろということぐらいなのでまさかセックスの最中に金玉吸われて吐くなんて教わっていないH。

 殺伐とした空気とシーツ。全て吐ききったHはそのまましっかりと最後まで済ませたそうだ。抜かりの無い男それがH。

 かなりの酩酊状態だったらしくその後すぐに眠り落ちてしまった。

 朝起きるとベッドにはKの姿はなく吐瀉物とその横に綺麗にたたんで置いてあるHの服。Hはこれはまた抱けるなと確信してユニオンを後にしたそうだ。

 いつだって夏の思い出はフィルターがかかり美しく、そして甘酸っぱく記憶に残留する。Hも今際の際でこのことを思い出すのかもしれない。しかし、酸っぱい記憶として。
 
 
 
 

 

こうすけのぽつりひとりごと

Kosuke Goto (inc cat tat2)

某フリーペーパーにて掲載されていた往年の名作コラムが1988にて復活!

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