HUMAN

2017.05.01

道東が生んだ稀代のアーティスト!大西重成


故郷北海道津別町に私設ミュージアム『シゲチャンランド』を創設し早17年。2017年も5月3日にオープンを控え、昨年から行政とも提携し始まった北の大地の採集民族『Neo Folk』についてや何度か取材を行なったのちに見えて来た地域への想いなど、道東が生んだ稀代のアーティスト、シゲチャンこと大西重成さんにお話を聞きました。



――今回、2017年のシゲチャンランドがOPEN間近なのとNeo Folkの始動後しばらく経ってからのタイミングということでお話をお聞きしたいと思います。まずはシゲチャンランドのお話から聞かせてもらえますか。

シゲチャンランドは2001年にOPENしました。きっかけは東京の当時のアトリエがいっぱいになってきて、とにかくどこか広大な場所に作品を置いておけるような場所が欲しくて。そんな場所を探してた時に、故郷の津別町にいきついたんです。最初は都会とのギャップに驚くことばかりで本当に大変だった(笑)そして今年で17年目を迎えるけど、作品も増える一方で、もういっぱいになってきちゃってるしね(笑)

――この広大なテーマパークも最初の動機は単純に作品を保管するための場所が欲しかっただけなんですね(笑)

作品はどれも子供みたいなものだからね。そのうちにせっかく置くんだったら私設の美術館を作ろうってことで数年かけてシゲチャンランドを作った。最初は北海道から動かないで生活を出来たらかっこいいなと思って東京から出て来たんだけどね、そんな時代が来るんじゃないかなと。ただ、ちょっとその時にはまだ少し早すぎたのかもしてない(笑)当時はバブルの崩壊とかにすごく影響を受けた。今だったら震災とかが同じようなきっかけなのかもしれないね。ただ、最初はいろいろ大変だったけど、今は若いクリエイターの人がたくさん来てくれたり、毎年来場者も増えていってるから楽しく過ごさせてもらってるよ。作品がいっぱいになってきたことがきっかけとなって数年前からNeo Folkの構想についても考えれるようになったしね。

シゲチャンの元には日々、道内・日本各地から様々なクリエイターが訪れる。この日は同じ北海道道東の釧路、北見から『FIELD NOTE』、『クスろ港』、『オホーツク情報発信番組』の面々

――毎回会うたびに新しい試みについて嬉々と話してくれる大西さんを見てると本当に楽しそうなのはこちらにも伝わってきます。

楽しいですね(笑)去年の夏とかもすごく良かったです。例えば夏の一週間だけ山輔(道東地区を中心に夏は津別峠、冬はニセコの2拠点で移動販売を行う飲食店)さんが来てくれて、その周りをその日のお客さんが囲んでみんなで食事して時があって。そしたらその輪の中で勝手にみんな繋がって行くんだよね。あ、Facebookで繋がってますね、とかお互いに共通の話題を見つけたりとか(笑)普段だったらすれ違うようなお客さんだったり、この場所じゃなかったらそうならなかったかもしれない人同士がね。それって意図してこちらで用意して仕掛けたわけじゃないんだけど、その場の空気とか雰囲気の中でコミュニケーションが取れたり新しい出会いがあったりする。

昨夏、『移動式空想料理店 山輔』さんが訪れた時の一枚

ぼくは常々思ってるんだけど、芸術もそうだけど、いくら説明して説明して「あ、それは素晴らしいですね」ってなったところでそれは本当にわかったことになってない。理論だとかは結局お勉強だからね。そうじゃなくて実際に前に来て、対象物を感じて、自分で何者なのかを探る。その違和感だったり、説明できない部分を愉しむ。それが出来た時に本当の意味でその対象物をわかるってことなんじゃないかな。そういう他人の視線や評価じゃなくて自分の感覚で感じることが出来るかどうか。今の時代はなんでも説明できたり、言葉で伝えられないといけないという風潮があるよね。だけど、本当に楽しい部分っていうのはそういう言葉に表せないことだったりするんだと思うな。生きている間(ま)をいかに楽しめるかだよね、自分の中で。そのためにもこういう場所ではなんでもかんでも決めすぎないで、あやふやなところというか余白をちゃんと残しておく。そうすればあとはほったらかしでもさっきみたいにどんどん話が進んでいったり、新しい関わりや時間がうまれていくんじゃないかな。

――その場でしかうまれないリアルな現場感ですね。それは大西さんがよくお話しするクリエイティブの部分にも通ずることかと思います。

ぼくも若い時にそういう場にいたからこそ言えることかもしれないけど(笑)本来、人の芸術だとかデザインだとかそういうものは賞を与えたりだとか優劣をつけるものじゃないと思うんだ。広告や制作物というのはクライアントやその受け手がワクワクしてくれる、楽しんでくれるものに本当は価値があるわけで。昔は自分も何かを作る、そしてそれがメディアに出たり、何かを受賞した時に初めて「あ、今回のはいい仕事だったんだな」って気づく(笑)賞だけが指標になっちゃって、そこに人間のリアルがなかったんだよね。それってある一部分を担ってるだけのすごく寂しいことだし、今考えたら非常に不健康なことだったなと思う。地方だとその過程がすべて自分にも見えて相手と共有できる。ビッグクライアントの仕事だと見えなかった部分が今はすごく伝わってくるんだよね。目の前でクライアントにワクワクするって言ってもらえると言葉にできない喜びがあるんだよ。それがモチベーションになってもっと工夫ができる。よりそのものに合ったものへ、もっと良くなるようにと。それは相手への思いやりがあって初めて出来る仕事だよね。そのものの持つリアリティとこの土地ならではの部分を磨いて、一緒に上がっていけるといい。東京に住んでいた時に「どこから来たの?」と聞かれて、故郷に何もないことが恥ずかしくて「津別です」ちゃんと言えなかった。そんな肩身の狭い思いを子供達にさせないためにも郷土愛に繋がるようなアイデンティティとなり得るものをこの土地で一緒に作っていけたらいいなと思ってます。二年前にクマヤキのデザインの実績があったことで行政の人もだいぶ理解をしてくれるようになった。そのおかげもあって今回のNeo Folkも実現できているから津別町までは責任持てないけども、住んでいる相生(シゲチャンランドやNeo Folkの本拠地A2C2などがある津別町の人口約90人の集落)についてはものすごく考えているんだよね。これは町とともに生きていくとも言えるかもしれないね。

シゲチャンが考える相生地区の未来予想図。既存の建物や環境を活かし、限界集落から未来ある町へ新たな価値を提示する。

――昨年から始まった『Neo Folk』とはどんなもので、今後どのような活動を行っていくのですか。

Neo Folkは監督・美術を担当するぼくとプロデューサーの田畑久美子、アート・クラフトの萩原由美乃、グラフィック・アートの須藤峻の4人で構成されているんだけども彼等は地域おこし協力隊として派遣されて3年というリミットが決まっています。まずはそれまでにきちんとここでやっていることを事業化、これから法人登記もします。先ほど話したようなローカルでデザインの力を必要としているものをここにいるみんなでトータルプロデュースしてこの土地独自のものを築き上げていきたいアップサイクルのものづくりについてもっといろんな人に知ってもらうことかな。例えばこれなんだけど(手元にあるテーブルを指差して)これは廃材を集めて作ったテーブルなんだ。テーブルの足には海にある浮きを使って、側面には小学校でもらってきたスキー、天板はダンボールで装飾してる。このデザインのものがこんなところにあるのっておもしろくない?(笑)これ、近くのスーパーにあったダンボールを集めて作ってるんだよ。こうやって普段は気付かないんだけど、足元の物を見直すだけで魅力的なものがたくさんある見慣れたものをどういう視点で見るのか、その視点によってそのものが再定義されることもある。表面をただなでただけの上辺が綺麗なのものじゃなくて、人と人とを繋ぐような次に繋がる仕事をしていきたいね。今年の9月2日・3日は相生原人祭(あいおいげんじんまつり)をまた開催する予定なんだけど、それに向けてこのテーブルだったりオリジナルのアイテムを増やしていきたいね。たくさん種類を作ってショールームを作りたいくらいだよ(笑)

  

一昨年の相生原人祭の様子。相生の町を舞台に身の回りにある草木を使い、その土地の景色を見る

――まだまだこの先が楽しみですね
先行きはわからないけども常に何かに生かされてる。若い時は反発するし、好きか嫌いか向いてるか向いてないかしかなかったけど、今は足元のことを観察してどう活かせるかを考えられるようになった。なぜか必死になればなるほど笑えてくるんだよね、すべてのことがおもしろいなあと。例えば長嶋茂雄とかイチロークラスの一握りの超有名人じゃない限り、そこそこの有名人の訃報であったとしても紹介されるニュースの局で出演したものが3分くらいに切り貼りしてまとめられちゃうじゃない。その人の最後のニュースがね。本来人間の一生なんてそんな簡単にまとめられるものじゃないよね。でも結局世間の評価なんてどこまでいってもその程度のものなんだよ、一過性の。だから他人の視線や評価じゃなくて、自分の感覚でやる。それはただ単に楽しく自分の欲求を満たしていけるかってことなんだよね。自己満だよ(笑)でもまだまだこの歳になっても創作意欲やアイデアは途切れないんだよね。そういえば昔、石岡瑛子さんに言われた「大西君、人生は自転車のように漕ぐのをやめたらおしまいだよ」って。だからまだまだ俺もこ漕ぎ続けなきゃ。死ぬまで作家で、作り手でいたいよ(笑)
シゲチャンランド
北海道網走郡津別町字相生256
TEL:090-5222-8580
開館期間(2017年):5月3日〜10月31日
開館時間:10:00~17:00
休館日:毎週水・木・金曜日(祝日の場合は開館)
入館料:小学生以上 700円(幼稚園児以下は無料)
公式サイト:http://www9.plala.or.jp/wl-garden/shigechanland/

あいおいアートコミュニティクラブ(A2C2)

北海道網走郡津別町字相生74-6
OPEN :  9:00~17:00
CLOSE : 土・日・祝日

公式サイト:http://www.neofolk.jp/

大西 重成(おおにし しげなり)

1946年生まれ。北海道津別町出身。津別高校卒業後、横浜の郵便局に入局。その後、渡米し、帰国後東京を拠点にイラストレーションなどの制作活動を開始。1978年にはADC賞を受賞。1996年シゲチャンランド開設のため移住、5年後の2001年シゲチャンランドをグランドオープンする。2016年より行政と提携し、地域おこし協力隊3名を募集し、北の大地の採集民族Neo Folkを結成する。主な過去作品にバービーハンコックや坂本龍一のレコードジャケットイラスト、モスバーガー『モスモス』の表紙、『ひらけ!ポンキッキ』のオープングタイトルなどがある。

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