HUMAN

2016.04.11

山上 裕一朗


津別で3代続く株式会社山上木工の跡取りとして、2014年に帰郷後、精力的な活動を見せる山上氏。

オリジナルブランドであるISU WORKSや特殊加工を得意とする機械力・職人力の話。今年度より始まる廃校した活汲小学校の有効活用など多岐に渡る将来の展望を聞いた。

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——津別に帰って来るきっかけはどんなことでしたか?

小さい頃から父が自営業をする姿を見て育ったんで、自然と進路や就職も家業に関係のある業界に進んでいました。将来的には家業を継ぐものだとずっと覚悟はしていて、30歳までには戻ってこようと決めていました。木工職人を選ぶという道もあったんですけど、機械の方に携わる勉強や仕事をして今に至ってます。就職もDMG森精機という工作機械を作るメーカーで7年間働きました。

——家業を継ぐことへの抵抗はありましたか?

なかったです。好きなことをやれとは言われていたけれど、小さな頃からずっと三代目とか言われてたからその気構えは昔からあったのかも。帰ってこなくてもお嫁さんももらって子供も授かってサラリーマンだった方がリスクもなく楽だったかもしれないけど、やっぱりルーツを大事にしたいと思い津別町に戻って来ました。

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機械力と職人力のコラボレーションが最大の強み

——今日色々見学させていただいて、色んなお話を聞いていた中でも特にルーツとおっしゃっていたのがとても印象的で。今まで長年積み重ねて来た山上木工さんの伝統の上に新しいものを築いていくんだ、という気概が感じられました。

弊社には長年の経験に裏打ちされた確かな技術を持った職人が沢山います。僕もまだまだ職人の工程は勉強中なんですが(笑)蓄積されたスキルもノウハウも設備もある。ただその反面、今までは外への発信という物があまりされてなくて。だから僕らの時代ではそこを重点的にやってもっと沢山の人に知ってもらったり手に取ってもらえうようにしていくことが大事だと思ってます。

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——自社ブランドISU WORKSはどういったものですか?

木工家のクラフトマインド、そして弊社の強みである機械力と職人力を組み合わせたプロジェクトです。このプロジェクト自体は僕が戻ってくる前に製品化されていました。製品のデザイン、技術力等ハード面は整っていたので、帰って来てからは積極的にISU WORKSの事業に注力し、パッケージデザインやマーケティングなどソフト面をもっと充実していければなと思っています。現在、全国で約30店舗、年間500台ペースで出荷しています。3年以内にはその倍のペースを目指していけたらなと思っています。

——機械で出来ることは機械に、人間でしか出来ないことは人間にという取り組みはかなり早い段階からされていたんですよね。機材への投資は惜しみなくされているとか

もちろん同じ工程は人間の手でも出来たりする部分もあるんだけど、もちろんそれには手間もかかるし、コストもかかる。それなら機械で出来ることは機械に任せてしまって、その分、人間にしか出来ない部分にもっと時間をかけたりもっと丁寧にモノ作りをするために時間を割く選択をしています。この辺の木工業界ではあまり多く出回っていない機械とかも多く導入しています。弊社は機械力と職人力のコラボレーションが大きな強みなんです。

——そこに時間を費やして、付加価値をつけていく、と。

その通りです。そこが僕たちが戦わなきゃいけないところだと思っています。同じことをしていても同業種の方や既製品と同じですし、そこにこだわるからこそ、自信の持てる製品が生み出せて、その価値もまたキチンと伝えることが出来ると思っています。

——ただ単に手作業ですべてやってオリジナルだからすごいんですよ、っていうものではなく、テクノロジーも融合させつつ人のぬくもりも感じられる。それってかなりの理想形ですよね

そうじゃないとこれから先はまったく歯が立たない時代がやってくると思っています。だからこそ今までの伝統ももちろん大事に、そして新しい僕たちの力も織り交ぜつつやっていきたいなと。これから新しいと取組みとして木製の車いすを作ろうとしています。というのが、現状主流の金属で出来た車いすはMRI検査の時などに弊害がある恐れがあったり、強力な磁場が発生した時に車いすとの間に挟まれる事故があったりする背景があって。それを解消するためにネジも使わない完全金属レスの木製車いすを作ろうと思ってます。通常手間もコストもかかって、この業界ではなかなかやりたがる人がいないのが現状なんだけど、そうゆうモノを作って世界に発信出来るモノにしていけたらなと思っています。

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オホーツクから世界を目指して。

——先日北海道知事から北海道チャレンジ企業表彰をされたんですよね

受賞理由がオホーツクをアピールしているだとか色んな時代を乗り越え経済環境の変化にも対応して来たこと。社会貢献を評価されてのことだったので、本当に光栄なことでした。

——今日使わせてもらっている廃校になってしまった活汲小学校も今後、有効活用されると。過疎や少子化により全国的にこういったケースが出てくる中、今後の動向に対する注目度も高そうですね。

大変ありがたいことに津別町から廃校の利活用について打診を受け、やらせていただけることになりました。ここはギャラリー的なものにしたいと思っています。あとはワークショップなども開催して実際に僕たちの仕事に触れてもらえるような空間を作りたいなと思ってます。ここを拠点に僕たちのことや街のことをもっと発信していけたらいいなと。将来的には津別町の認知度アップという面でも貢献出来たらなと思っています。

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廃校となった活汲小学校で今年度より新しい取り組みが始まる

——今日工場を見学させてもらって初めて見聞きすることばかりですごく新鮮でした。こうやって可視化することで今まで一般的に見えづらかった部分がすごくわかったし、印象も変わりました。街絡みのことということで公益性もすごく含まれてて、どのような形になるのかがとても楽しみです。

使わせていただける以上、そういったことは意識してやっていきたいし、そのつもりでやらなきゃなと思ってます。

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5軸機を含む工作機械が9台、汎用機を合わせると100台近くの設備に及ぶ

——しっかりとした土台があるからこそ、これから色んな方向に進んで行くことが出来そうですね。

今出来ることを精一杯やるだけです。まだ立ち上がって間もないので。おこがましいですが出来上がった時にはまた取材してください(笑)

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——もちろんです(笑)

何をどう作ってるかってことをイメージしてもらえる空間にしたくて。もっと身近に触れてもらってた色んな経験をしてもらいたい。工場に来てもらってもなかなかうまく伝えれない場面も多い。だけどここは工場とは違って本当に見せるためだけの場所。組み立ててる手先までお見せ出来る状態にしたい。その上で実物を触ってもらうことで色々と感じてもらえるような。そんな場所が出来たらいいなと思っています。

——今でも本州の人が就職したいって言ってくることもあるんですよね?それもこういう場所が出来る出来るともっともっと増えそうですよね。若い人とか

それは本当にありがたい。今は30代40代と50代60代、完全に二つに別れてて、いきなり次の時代が来ちゃうそんな状況なんです。だからこそ今のうちに若い人にもアタリをつけて、引き入れることで強いチームにしていかなきゃいけない。それが僕らの課題でもあります。

——伝統って継承していかなければ途絶えてしまいますもんね。色んな業種で後継者がいないのが現状だけど、若い人達にとってもその魅力が見えなくて伝わってこないから成り手があまり現れないわけで。こういった施設でその魅力が伝えることが出来たら。それこそ地方創生ですよ。

そういったことをアピールして、若い人にもアプローチすることで少しでも地元に残ってもらって選択肢が増えればなと思っています。本当に微力なんですけど。それが使わせてもらってることの意義でもあるし、街への貢献にもなるのかなと思っています。本当に夢がいっぱいなんですよ(笑)沢山やりたいことはあるけども少しずつ形にしていって理想に近づけていければなと。

——これはまさしく東京じゃ出来ないことですよね。こういったことの積み重ねが地域の独自性を育んで、魅力になりますよね。

そうですね。やることは山のようにあるんで、とりあえずやるしかないです(笑)「オホーツクから世界を目指して」ってことが弊社のテーマで。発信するためには自らの魅力を知って、伝える必要があると思ってます。これからはそういったものを生み出して伸ばしていけるよう色んなことをやっていければなと。あとは木材のことならなんでも出来ると思って僕らは日々業務に望んでいますので、異業種の方でも「こういうことをやってみたい」とか「こんなの作れるの?」とかまたは情熱で満ちあふれ働いてみたいとかそういった方はぜひいつでもご相談ください。全力でお応えしたいし、一緒にやらせていただきたいと思ってます。

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山上 裕一朗(やまがみ ゆういちろう)

1984年生まれ、津別町出身。芝浦工業大学工学部卒業後、DMG森精機株式会社に就職2014年帰郷後は家業である(株)山上木工にて従事。6月より廃校になった活汲小学校を活用した新しい取組みが始まる。

※MAGAZINE 1988 vol.4掲載

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