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2016.04.09

こうすけのぽつりひとりごと


第一回 愛

 一線(いっせん)を越(こ)・える
 守るべきことを破る。してはならないことをする。「社会の公器としての―・える」(大辞林)

 成功してつまらなくなった彼奴も、飛んでしまった彼奴も、他に死んだほうがいい奴なんていっぱいいるのに死んでしまった彼奴も、平等にあったはずの若かった頃の時間。

トンボの羽を左右から引っ張り「シーチキン」などと言って騒いでみたり、アリを食べては「酢っぺーーー」と騒いでみたりした子供時代。
初体験の時、ちんこがカッチカチになって下腹部が尋常じゃなく痛くなってセックスどころの騒ぎじゃない状態になった学生時代。
初めての3Pでテンションが上がりすぎてコーラーの瓶を挿れたくなるもローションがなくサラダ油で代用して怒られた青年時代。
そんなかけがえのない美しく素敵なすばらしい時間はすでにセピア色になりメガネをかけてもぼやけて見える。
今ではみんな大人になり家庭を持ち堅実に自分の足で立っている。
これを読んでいるティーンネイジャーの人に言っておくが、ふと振り返ると大きな鎌をもって迫ってくるモノがいつか見えるときが来るだろう。そいつの正体は「大人になりなさい」です。べらぼうに厄介なので今から身を引き締めておいたほうがいいだろう。

 大人というものは何かと色々守らなければいけない過酷なものだ。日々の生活はゆっくりじわじわと自分を殺していく。さらに子供が出来ると「ママ」や「パパ」という別の生き物に変態するというから恐ろしくてうかうか眠っていられない。
なので色々な趣味娯楽を見つけ息抜きをしなければ潰れてしまう。そんな弱く小さく儚い生き物なのだ。
友人の片瀬(仮名)は若くして結婚し、可愛い子供と気立てのいい奥さんに支えられ幸せに日々を過ごしている。
仕事でも順調に昇進を重ね、そこそこ世間に胸を張れるポジションで働いている。
毎日毎日休みもなく夜遅くまで働き、くたくたになっては通勤に1時間ほどかかる新興住宅地に新築で建てた我が家に帰る。そんな生活がこの先永遠と続くと思うと片瀬は気が違ってしまいそうな焦燥感に襲われて毎日震えていたそうだ。
うだるような暑さの夏も、全てを凍てつかせる冬も、憂鬱と焦りの不協和音が片瀬を苦しめていた。そして春が来て会社に新入社員が入社してきた。希望あふれる春だ。

 派手ではないが明るく教養もある22歳ちひろ(仮名)。それでいて服の上からでも巨乳とわかる。片瀬は一発で恋に落ちた。
上司ということをいいことにパワープレイで食事に誘う片瀬。それを断らないちひろ。
上司ということをいいことにパワープレイで2件目に誘う片瀬。それを断らないちひろ。
上司ということをいいことにパワープレイで3件目に誘う片瀬。それを断らないちひろ。
上司ということを忘れパワープレイでホテルに誘う片瀬。それを断らないちひろ。
どうやらちひろも早い段階で片瀬に恋心を抱いていたようだ。しかし、片瀬には家族がある。ちひろからはアクションは起こさないが来るものは拒まない大和撫子。
二人はめでたくねんごろに。氷の微笑、熟れた果実、爛れた関係。二人は週末に逢瀬を重ね愛を育んだ。
あれだけ焦燥や憂鬱という得体の知れないモンスターに苛まれていた片瀬であったが愛人を獲得したことにより生活に潤いが出た。
会社の連中やもちろん奥さんにこの秘密が暴かれないように夜神月の周到さで徹底的にひた隠す片瀬。
結構ストレスだと思うのだがかつての悩みが吹き飛びそれでいて潤っているのだからそんなもの感じているはずはない。
週末の逢瀬はバラ色の愛で満ち溢れる。時には車の中で、時には道立体育センターで。最近はもっぱらホテルで3時間というのがお決まりのコースだ。
中イキさせることに命を燃やしているそうだ。賢明な読者なら注釈なしでお分かりだと思うが不勉強な貴兄の為に注釈しておこう。

中イキ
女性をクンニ、手マン等でイカせるのではなく飽くまで挿入時にちんこのみでイカすという神話の一節のような行為である。(大辞林)

 電話口でいつも嬉々として中イキのコツを私に教授する片瀬。おかげで私も中イキのコツは伝授されてはいるが、ちんこがでかいのがコンプレックスでセックスが恐怖でしかないのでブーティーコールはかけてこないようお願いしたい。
 
 冬のこの時期にしては暖かいがこんこんと降りしきる雪の夜、片瀬からの着信があった。
片瀬の親御さんが亡くなった時にかけてきた電話より暗いトーンで話す片瀬。泣いているようにも聞こえる。
聞くと、会社でも他人行儀でLINEも基本既読無視が2週間ほど続いているらしい。
はっきり言って知ったこっちゃないのだが片瀬は頻繁にタイの勃起薬「カマグラ」をカートンでくれるグッドマンなのでぞんざいには出来ない。
ちひろの気持ちになって考えてみると、愛人は会社の上司で妻子持ち。ちひろはまだ若い。先を見据えた時に未来が見えないので片瀬とわかれてセカオワの深瀬のようなしょっぱい奴と健全なお付き合いをしたほうがいいに決まっているし、おそらく本人もバカではないのでその辺は承知しているはず。
ちひろも片瀬と同じ焦燥と憂鬱の狭間で溺れていることだろうという旨を片瀬に伝えた。我ながらベストアンサー。
しかし、どうやらそういうことではないらしい。きっかけはLINEだ。
いつもは週末に3時間コース。長くても5時間でセックス3回が関の山といったところだが奥さんに高校の同窓会で温泉旅行があると嘘をつき、ちひろと一昼夜過ごすつもりで旅行の誘いのLINEをしたところおかしい感じになってしまったそうだ。
射精した精子を躊躇なく飲むにもかかわらずお泊まりはNG
自分用の電マをドンキで購入し片瀬に携帯させているにもかかわらずお泊まりはNG
とびっこを挿れたままコンビニでハーゲンダッツを二人で買いに出かけるにもかかわらずお泊まりはNG
NGの境界線がトリッキー過ぎてよくわからない。
お泊まりをしてしまうと家族に迷惑をかけてしまうから気が引けて断っているのではないかとまたもベストアンサー。
 
 後日私の信用の置ける調査員にちひろの身辺調査をさせたところ、同年代の男と交際しているという調査結果が帰ってきた。

なんてことはない。ただお泊まりをすると彼氏にばれると困るからだ。
その事実を片瀬に伝えるかどうかは一度ちひろを抱いてから考えようと思うが、ちひろに彼氏がいるという事実は片瀬を相当追い込むであろうことは想像に難しくない。
 
線引きをし境界線をつくり他者の侵食を防ぎ自分を保ち人は生きる。
小さくて弱くて儚いモノ。それが大人だ。
 

 
 

 

こうすけのぽつりひとりごと

Kosuke Goto (inc cat tat2)

某フリーペーパーにて掲載されていた往年の名作コラムが1988にて復活!

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