HUMAN

2016.04.11

川口 洋史


漁師の家に生まれ、学生時代より家業を継ぐことと新しい漁業の融合を思案し続けていた、川口氏。漁師、webマーケティング、料理、DJと一見なんら関連性のないようなものを結びつけ、新たなサービスや価値観を提案しようと日々取り組む同氏。人と魚、これからの関係性とは。

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自国の魚をおいしく食べる習慣をもう一度つけましょう、と。

 

——今のような活動をしたい、あるいはするってなった動機はなんだったんですか?

実家が漁師っていうこともあって、昔からずっと魚に接してたんだけど。中学生の時くらいにはもう今のイメージはしてたと思う。未来永劫漁獲量って一定じゃないだろうし、環境が悪化している中で、漁獲量はどんどん減少するだろうし、そんな中でぼんやりと今の言葉で言う高付加価値化みたいなのをしなきゃいけないんじゃないかって考えていました。で、そういうことをしたくて高校でもいろいろ勉強して、大学もそれならとりあえず経済だ、みたいな感じで経済学部にした。授業取るのも全部関係のある授業取って、ゼミもそれならマーケティングゼミでしょって。そこで研究して、卒論も魚に関するテーマを研究したり。魚を買う消費者の購買行動。就職するときもそれなら広告会社で電通行くでしょー!って(笑)結果電通は落ちたて代理店じゃないけど、グループ会社に食い込めたのは運が良かったなと思います。

——ウェブマーケティングを勉強するためにってことですか。

そう。プラス人脈づくりっていうのは意識してました。本社の人とも仕事することもちょいちょいあったりして、知り合いも増えていったし、そういった意味ではすごくよかった。高付加価値化をしたいって漠然と考えていただけのことがだんだんと具体的にイメージが拡がっていきました。

——具体的にどういったことを学べましたか?

一言じゃ言いにくいけれど、一番は物を売るためには広告を通じたコミュニケーションを戦略的にちゃんと取ってないとなかなか売れないなっていうのを実感した。例え商品がすごくいいものだったとしても。それと物の流通に関して、世間の移り変わりってのがすごくあるってこと。一気に伸びた会社が今度は一気に落ち込んだり。SNSとかすごかった。そういう視点でものをみると、魚に関してもこれから激変してくんだろうなってのを肌で感じた。

——イメージしてきたものに向かってやっと今、具体的に動ける段階に来てると思いますが、それについてはいかがですか?

本当に一歩ずつちょっとずつ進んで勉強してきたカンジだからね・・・それでもまだそもそもの漁師の仕事をちゃんと覚えなきゃいけないってのもあって、今はこてんぱんにやられながらもめげずに一生懸命やってます(笑)だけど今までよりはずっとイメージに近づいた実感はあるからすごいうれしい。ずっと種まきをしてきたわけだから。芽が出るかもわからないものを。だからいざこんなこと出来そうってなった時にはすごくうれしいよね。ひとつ、またひとつと形になってきそうって。何かイベントやってますってだけでもいいんだ。一個一個何かやった時の成果ってのを残していきたい。

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札幌PROVOで行われた『ku-kai ?』の様子

——今ちまたでは六次産業化ということが叫ばれてますが、それを付け焼刃的にやるんではなくて、かなり前からイメージして、準備して色んなところに種を沢山まいていたものが、少しずつ形になりそうですもんね。

まず一つの商品を作るってのが直近でやろうとしてることで。どういうところに落とし込むかっていうと、北海道っていうくくりで道東の魚をPRをする。そこから日本全国、次は海外と。こういう仕事ができるだろう最終着地点のアイディアはどんどん出て来るけど、直近でまずはブランド化出来る商品をつくりたい。

——どういったものなんですか?

それはまだ言いたくない部分がちょっとだけあるんだけど(笑)今やってる魚食系男子のスープカレーとかはすぐに出来そうなものだと思ってます。

——ご自分で料理して提供するってこともそういう商品化に繋がっているんですね。めぼしい物が出来たらちょっとずつパッケージング化してってみたいな。

そうだね。でもじつはそういった商品をガンガン売っていこうっていうのよりは、僕が今そういうプロジェクトとかをやっていく本当の目的は、わかりやすく言えばもっと国内需要をあげましょうっていうシンプルなことなんだ。日本人がもっと自国の魚をおいしく食べる習慣をもう一度つけていきましょうって。魚をとって稼いでいきたいわけだから、そのために魚をブランディングしていく作業を一体だれがやってくれるの?って。それって流通業者がやるの?って。でもそれってあんまりやらないでしょ。だから俺ら自身でやらなきゃいけないんだと。そこをがんばっていきたい。魚をおいしく食べるっていうことだけのPRだけじゃなくて、ライフスタイル全体を通してその中に魚を絡ませながら今までと違う見せ方をしていくことで、なんかちょっと素敵かも、いいかもってのをどんどん増やしていきたい。そういうイメージでの『ku-kai?』だったりするんだ。なんかおもしろそう、行ってみたいなそれ、って。それが全然関係ない世代のさ、たとえば中年の人で音楽もあんまり聞きませんみたいな人でもたまたま『ku-kai?』の情報を見て、実際に来れなかったとしてもなんかすごく魚がうまそうだ、とかちょっとこじゃれたカンジでいいなって思ってくれれば嬉しいなって。

漁師

あいつが獲ったものだから食べたいって言ってもらえるように

——魚のあり方を変えるってところにまで話が及びますね。

そもそも魚食系男子プロジェクトってなんですかみたいな話だと思うんだけど(笑)そういう従来の魚や漁業のあり方だけでなくて、新しい見え方や感じ方が出来るようなPRやプロジェクトをやっていきたい。その中で新しい商品とかも生み出していければいいし、付随した色々な流れができていければいいかなと思っています。

——先細りするのが目に見えてる中で、新たに付加価値がついたり新しい提案が出来てさらなる発展を目指すってことですかね。

そういうこと。今までの魚のPRっていったらさ、魚!漁師!ドン!みたいな。船!海!みたいな。それはもう見飽きたし、誰でもイメージ出来るから。そういうのをまた違う切り口だったり見せ方をすることで新たな価値観って創り出せると思ってるんだ。

——「美人すぎる〜」とかああいうのも似たようなことですかね。違った角度から見せることで従来の概念を変えるっていう。魚でそれをやろうとしてる総称が魚食系男子プロジェクトってことですね。

キャッチコピーもあってね。(メモに書きながら)「オイシイ。でツナガル」

——うんうん、いいですね。なるほど。おいしいでつながる…川口さんって例えば漁師でDJで料理もやってお花も活けて旅も好きでマルチに色んなことこなしてて。一見それって全然関連性がないように見えるんだけど、実は全部繋がってたり活用出来る場面があるんだ。ってハッとする時があって。それこそ従来の一般的な漁師ってイメージからは外れてるような気もしますし。そういう意味合いも込められてますよね?

今はスーツ着て仕事とかもあるし、アイツ漁師なのになにやってんの?って(笑)取ってる物や味は変わらないけど、なんかあいつがとったやつを食べてみたいって思ってもらえたらいいな。なんでそれが重要かって、冷凍とか流通のための技術って飛躍的に伸びてて、それはそれで尊くてテクノロジーって素晴らしいことなんだけど。これがこの先どんどん発達していくとそう遠くない将来に新鮮な魚と新鮮じゃない魚の差がどんどんなくなっていくと思う。そうなったときに、鮮度以外の部分で消費者が商品を選択するってなったら、どれだけそういった他との違いを出せたりプロモーションを通して消費者と生産者の間を埋めるようなコミュニケーションがとれてるのかってことがすごく重要になってくると思ってて。

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——僕も1988の話をするときよくいうんですけど、同じ情報はたぶんどこかにある。例えばお店の情報一つにしても。むしろwebとかだとさらに多くの情報が点在してますよね。でも例えば同じ情報が載ってたとしても媒体が違えば受ける印象も説得力も全然違うじゃないですか。BRUTUSに載ってたら「すげー!」って(笑)それは何にしても、今回の川口さんの魚にももちろん当てはまる話で、そういう編集力とか見せ方が本当に大事だと思うんです。一挙手一投足大事にしていかないとイメージって簡単に崩れてっちゃうと思うから。

価値を高める作業だよね。同じ物でも見違えるように思ってもらうことってものすごい企業努力だと思う。それが信頼された情報源になるわけだし。

——どんなことでも情報過多な世の中ですでからね。

どれをとっていいか、どれを信じていいかわからない中で、こちらから信頼出来るものを示してあげるっていうのがやっていきたいことなんだ。世論もそういうカンジだよね。テレビとかタレントにしたって今人気あるのはマズいものはマズいとか嫌だってちゃんと言えることっていう。そこに逆に信頼があったりして支持も生まれているんだろうね。

——これからどういったアプローチをしていくのかすごく楽しみです。

あとは今、行政の観光振興課とお仕事させてもらったりしてて。それはまた種類は違って通訳みたいな仕事してるんだよね、タイ人と。今月もまだ一回あるんだけど。市が観光誘致を積極的に進めてて、そのためにタイの旅行代理店が視察に来たりする。ツアーのプランに北見も組み込めむための視察で。そこに一応通訳として行きつつ、常呂の魚介類のプレゼンみたいなのをやってる。その辺の東南アジアとなにか一発やりたいよね。これからしばらくは常呂の漁業をPRしていって、この先どれくらいの規模になるかはわからないんだけど、北海道くらいの規模ではやっていきたいなって思ってる。

——常呂でそういうモデルケースが出来たらそれをまた違う地域に持って行ってみたいなことも出来ますもんね。

理想は日本!クールジャパン!ぐらいまでもっていきたいけそれはまだまだ先の話で(笑)まずは直近でわかりやすい刈り取りみたいなのもしていかなきゃ。色んな動きをしていても結局何を消費者の方に届けられてるの?ってことにもなるし。PRしまくってるけど口に入らないっていうのは寂しいから。これからの時期は本業が忙しくなるし、スケジュールが立たなくて大変だけど、少しずつ一つずつやっていきたいな。

川口 洋史(かわぐち きよふみ)

1984年生まれ、常呂町出身。日本大学卒業後、(株)サイバーコミュニケーションズ就職後、2010年帰郷。常呂町にて漁師の傍ら『魚食系男子project』を始める。2014年より実家の漁船に戻り、現在に至る。

※MAGAZINE 1988 VOL.4掲載

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